夕闇の 迫りたる胸 登山宿

山が視界に入ったら、
私はそっと目を背ける。
空の手前にそびえ、
黒いシルエットをしている山が。

あのとき、あの人は、
待っていてくれといったのか、
それとも幸せになれといったのか、
どうして聞き洩らしてしまったのだろう。

たしか山に行ったはずだけれど。
それがどの山だったのか、
探して歩きたいとは思うけれど、
どの山も、遠くから見れば
まるで表情がない影のよう。
私みたいなのは寄せ付けない。
心を沿わせてもくれない。

夕闇の中で、
その姿はいちばん夜に近い黒。