若竹や 見上ぐる先の 紅陽染め

小さい頃、
近所にきれいなお姉さんが住んでいた。
目が合うと、必ず白い歯を見せて微笑んで、
細い指の左手を振ってくれた。

ときどき恋人と思しき眼鏡の男性と、
触れるか触れないかの隣り合わせで歩いていた。
私は彼女が通り過ぎてからも、
そっと振り返って、その後ろ姿を吸いつくように見た。

それは純粋にあの人が好きだったのか、
それとも大きくなったらああなるんだと思っていたのか、
決して近づけないと感じていたのか。

満員電車に揺られる日常を送るようになって、
目尻に手をあててため息をつく年齢になって、
前より頻繁にあの人の姿を思い出すようになった。
どうしてあんなに惹かれたのだろう。

それはある日、あなたと隣り合わせで歩いていて、
ウィンドウに映った二人の姿を見たとき気がついた。
恋にあこがれていたのだ。
私もいつか、誰かを見つけるのだろうと。

納得する時というのは面白くて、
頭の中にすとんと何かが落ちてくるみたいになる。
そうだったんだといった私に、あなたは何、と首を傾げたけれど、
それには答えず、私はただ寄り添った。