来たいといっていた旧華族の屋敷を訪れたのは、
あいにくの雨模様の日。
だけど、ちょうど庭へと足を向けたとき、
一瞬だけ雨がやんだ。
その隙に、あなたは走り出す。
待って。
ヒールが芝生の下の、
柔らかい地面に埋まって足が取られる。
あなたは離れていく。
芝生の向こう、足音も聞こえない。
だからもっと大声で呼びかける。
ねえ、待ってったら。
そうすれば、あなたはちゃんと振り返ってくれる。
細めた目の、太陽みたいな笑顔。
私、広い家には住みたくないな。
帰り道、そう呟いた。
どうして?
だって、どんなにお金持ちだって、
あなたに声が届かないところなんて、
とても耐えられないもの。