夏は、そのことを考える。
その人の、いかに心の強かったか。
いかに自分を律したか。
その奥底の恐怖や、
細かったであろう肩の線。
夏は、そのことを考える。
私は女だから、
待っている側の気持ち。
どれだけ行かせたくなかったか。
どれだけ無事を祈ったか。
きっと一日の、
至る瞬間に、
何度も何度も思い出しては、
祈っただろう。
いったい、そのいくつが、
叶えられたのだろう。
もし当事者だったら。
そう思うと震えが止まらない。
けれど、その震えが止まらなかった人が、
数えきれぬほどいたのだと思うと、
一年のうち、この時期くらい、
震えがとまらなくてもいいのだろう。
その分、この身に刻み込める。