引鴨や 渡りゆく空 遥なり

ずっと取っておいたジャケットがある。
初めて会いに行ったとき、
あなたが褒めてくれたもの。
それを着ると、
飛行機の窓側の座席を取って、
北へ北へとすぎる空ばかり見ていたのを思い出す。

辿りついた先は、
暦の上では春だというのに、
まだ息が白くなるほど寒くて、
私は笑顔であなたに抱きついたけれど、
本当はその温度差に、
自分でも哀しくなるほど距離を感じた。

あなたは、かなり長い間私を抱きしめていて、
それはずいぶん強い力で、私はついには戸惑った。
どうしたの。
そっと聞いたら、あなたは綿に触れるような柔らかさで体を離して、
きれいな色だね、と私の肩や腕や胸元を見ていった。
そして、もっと小さな声で、似合うよ、と。

会いたかったんだね。
私もだよ。

でも、そのことは言葉にできず、
そのマフラー素敵だね、とだけいった。

今朝もあなたはそれをしている。
私はそれを撫でてから、あなたを見送る。